- 公開日:2018.08.28
- 更新日:2023-11-09
薬剤師必見!疑義照会のポイントと例文を交えた記録の書き方を紹介
処方せんに不備や疑わしい点などがあった場合に、処方医に問い合わせをする疑義照会(ぎぎしょうかい)。疑義照会は、患者さまに安全な薬物治療を提供するための重要な仕事の一つです。
しかし、薬のスペシャリストとして医師に確認をとるうえでは、学術的かつ明確な理由が求められるため、疑義照会が苦手という薬剤師も少なくないでしょう。また、顔が見えない電話でのコミュニケーションを苦手とする薬剤師も多いかもしれません。
そこでこの記事では、そもそも疑義照会とは何か、何のために行わなければならないのか、疑義照会を行う手順や注意点などをわかりやすくご紹介します。
疑義照会を行ううえで重要なポイントをまとめていますので、今一度確認して業務に生かしましょう。
- 疑義照会とは?
- 疑義照会を行う理由は?薬剤師が担う重要な役割
- 疑義照会はなぜ難しい?
- 疑義照会を行う手順
- 疑義照会をする際の注意点やマナー
- 疑義照会の記録の書き方を解説!実際の事例と例文もご紹介
- 疑義照会は薬剤師の重要な責務
疑義照会とは?
疑義照会は、薬剤師法24条によって義務付けられている薬剤師の重要な責務です。医師や歯科医師の発行した処方せんに記載される処方意図を明らかにし、疑問点や不明点があれば処方医に問い合わせて確認を行わなければなりません。
(処方せん中の疑義)
第二十四条 薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによつて調剤してはならない。
疑義照会は、「形式的疑義照会」と「薬学的疑義照会」の二つに大別されます。
形式的疑義照会
形式的疑義照会は、処方せんの記載内容や要項に不備や疑問などがあった際に必ず行う疑義照会です。
たとえば、以下に該当する場合は、疑義照会を行わなければなりません。
1.薬剤の規格が書かれていない、用法に記載漏れがある、医師の記名押印がない
2.向精神薬、新薬などの投与日数が制限を超えている
3.販売中止品目や名称変更品目がある
4.カラーコピーなどの偽造処方せんと思われる場合 など
なお、処方せんの不備で意外と多いのが有効期限切れです。有効期限は発行日を含めて4日以内ですが、この期限を過ぎた処方せんをもとに調剤することは禁止されています。
また、疑義照会をしても、法律により期限延長ができません。原則として患者さまには再度医療機関を受診して処方せんを再発行してもらう必要があります。患者さまには処方せんには4日間という有効期限があることを必ず伝えるようにしましょう。
薬学的疑義照会
薬学的疑義照会とは、処方内容について薬学的観点から疑義が生じた際に行う疑義照会のことを指します。たとえば、以下のような内容を、処方せん、薬歴、お薬手帳、患者さまとの対話などから把握し、疑義が生じた場合に行われるものです。
1.禁忌や慎重投与の症例ではないか
2.相互作用(重複投与も含む)はないか
3.副作用症状が認められてないか
4.用法・用量は適切であるか
5.診断された病名と処方薬が適合しているか
6.患者さまの訴えに対して必要な薬剤が処方されているか
7.残薬があるのか、アドヒアランスは良好なのか など
とくに、投与禁忌の疾患に罹患している、併用禁忌や重複などの相互作用がある、重篤な副作用の症状があるなどの場合は必須です。また副作用では、患者さまの生活に支障があれば、軽症であっても患者さまの同意を得たうえで疑義照会を行う必要があるでしょう。
なお、疑義照会により処方が変更された場合には、調剤報酬として「重複投与・相互作用等防止加算」が算定できます。
(1)残薬調整に係るもの以外の場合 40点
(2)残薬調整に係るものの場合 30点
※「残薬調整に係るもの以外の場合」とは、①併用薬との重複投与、②併用薬、飲食物等との相互作用、③そのほか薬学的観点から必要と認める事項とされています。
疑義照会を行う理由は?薬剤師が担う重要な役割
先にあげた通り疑義照会は法律上の義務であることはもちろんですが、ここではさらに、疑義照会がなぜ必要不可欠であるかについて解説します。
患者さまの健康被害を防ぐ
疑義照会の一番の目的は「患者さまを健康被害から守る」ことです。
薬剤師から薬を交付された患者さまは薬の服用を開始します。もし誤った処方内容を薬剤師が見落とせば、予期せぬ副作用の発現や健康被害の発生につながってしまうのです。
平成27年度に全国の保険薬局5630店を対象にした調査では、疑義照会の発生割合は2.74%であり、そのうち21.90%が形式的疑義照会、78.10%が薬学的疑義照会でした。さらに薬学的疑義照会のうち74.88%で処方変更が生じました。
報告によると、薬学的疑義照会による処方変更が行われた中では、薬剤性過敏症候群や急性腎不全、出血傾向、消化性潰瘍網膜・視覚障害などの重篤な副作用の回避につながったという結果も出ています。
これらの調査からもわかるように、薬剤師は疑義照会によって患者さまを健康被害から守る重要な役割を担っているのです。
なお、疑義を発見するタイミングとしては「処方せんの内容」が56.1%、「患者・家族等へのインタビュー(服薬指導)」が42.4%、「薬歴の内容」が14.6%という結果が出ています。疑義を発見するためには、処方せんや薬歴を見るだけでなく、服薬指導時に患者さまや家族へ適切なコミュニケーションをとることも大切です。
薬剤費を削減する
疑義照会は、実は国の薬剤費を減らすことにもつながります。
平成27年度の同調査報告書によると、「処方の記入漏れ」を除いた薬学的疑義照会によって薬剤費は383万3,407円の減額、薬学的疑義照会1件あたりに換算すると、643円の節減となりました。
これらの結果から、全国の薬局で疑義照会を行った場合の薬剤費の節減効果を推定すると、年間で約102億8,990万円にのぼるとされています。
疑義照会が薬剤費の節減につながる理由としては、「残薬に伴う日数や投与回数の調整」、「相互作用の回避による減薬」、「同種同効薬の重複を回避するための減薬」があげられます。
さらに、疑義照会により重篤な副作用を回避することで、その治療費の節減にもつながると推定されています。
平成27年度全国薬局疑義照会調査報告書|公益社団法人 日本薬剤師会
疑義照会はなぜ難しい?
上記の項目を確認するのが疑義照会の流れですが、実際にはそう簡単にはいかないものです。疑義照会はなぜ難しいのか、解説していきます。
薬学的疑義の発見には知識と経験が必要
「形式的疑義」は、処方せんの記載内容をしっかりと確認することができれば、経験年数や知識が浅くても訓練次第では比較的容易に見つけられるでしょう。
しかし、医師に報告すべき薬の副作用かどうか、判断することが難しいものも多いのです。
なぜなら、薬によってはその副作用が高頻度に発現するものの体が慣れると徐々に副作用が軽減されるものもあるからです。
たとえば、抗うつ薬の多くで発現する吐き気や下痢などの副作用は服用を開始してから1〜2週間以内に強く出ますが、それ以降は体が慣れて改善されていくケースがほとんどです。
一般に抗うつ薬は効果が出るまでに2週間以上はかかるため、患者さまは効果よりも先に副作用が出たことで不安を訴えられます。
薬剤師は、副作用で薬を中断するのではなく服用を継続することが大切である旨を伝えることが必要です。
疑義の発見には、薬剤師として豊富な経験と薬学的知識が求められます。
医師との適切なコミュニケーションが必要
医師は多忙である場合が多く、疑義照会に必要以上の手間を取るとトラブルの原因になることも。手短に話したり言い回しに注意したりと、基本的なマナーに気を付けなければならないことはもちろん、うまく意思疎通できるコミュニケーション能力も必要不可欠です。
また、あまりに初歩的なことを聞いてしまうと、「薬剤師なのにそんなこともわからないの?」と、その存在意義を問われることにもなりかねません。
医師の処方意図をくみながら、薬剤師としての責務を果たす知識と理解力、判断力も重要です。
疑義照会を行う手順
疑義を実際に発見しても、そのあとの手順について不安に感じる方もいるかもしれません。ここでは、実際に電話で医師に疑義照会するときの手順を解説します。
電話で疑義照会する手順
1.処方せんに記載のある電話番号へ電話をかける
2.病院の受付スタッフとやり取りする
<会話例>
薬剤師「〇〇薬局の△△と申します。××さんの処方せんについて確認させていただきたいことがございます」
受付「患者さまの名前とID、生年月日を教えてください」
3.疑義照会の内容を伝える
患者さまの確認が取れたら、疑義照会の内容を伝えます。医師が直接対応してくれる場合もありますが、受付の人が医師へ伝達する場合が多いです。
<会話例>
薬剤師「××さまの処方Rp〇番の□□について、先生に確認させていただきたいことがございます。......(疑義内容を伝える)」
4.疑義照会の返答を聞く
疑義照会の返答はその場でしてもらえる場合と、折り返しの電話を待つ場合があります。疑義照会の返答を聞いたら、担当者の名前も記録に残すため必ず聞いておきましょう。
以上が電話で疑義照会する手順です。
FAXで疑義照会する場合は、疑義照会の内容と併せて薬局の名称やFAX番号を漏れなく記載する必要があります。
処方せんのコピーや薬局の印鑑などを活用すると良いでしょう。
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疑義照会をする際の注意点やマナー
疑義照会の際は、いくつかの注意すべきポイントをおさえることにより円滑に話を進められるでしょう。ここでは主なポイントをいくつかご紹介します。
「手短に」が鉄則。要点をまとめてから電話する
疑義照会はなるべく手短に行うことが鉄則です。電話をかけてから伝えることを考えているようでは、時間もかかり失礼に当たります。不安な場合は事前に伝える内容を整理し、メモに要点をまとめてから電話をかけましょう。
代替薬などを事前に調べておく
あらかじめ代替薬を調べておくことも大切です。たとえば投与禁忌、併用禁忌や副作用の問い合わせでは、「同効薬で安心して使える代替薬には何がありますか?」とアドバイスを求められることがあります。
また禁忌や副作用の理由も尋ねられるかもしれません。質問にはすぐ答えられるよう、事前に準備してから疑義照会を行いましょう。
言い回しに注意する
間違いをあからさまに指摘するような言い回しは避けましょう。
「こちらのお薬、用法が間違っていると思うのですが......」というように間違いと決めつけるのではなく、「こちらのお薬は1日3回から2回に変更となっていますが、このままお渡ししてよろしいですか?」と確認をするような言い方に変えると、円滑に疑義照会を行えるでしょう。
患者さまへの配慮も忘れない
疑義照会をするときは、医師への気遣いだけでなく患者さまへの配慮も必要です。待ち時間がいつもより長かったり、薬が知らないうちに変更されていたりしては、患者さまを不安にさせてしまうでしょう。
疑義照会をする前に、患者さまへ処方内容について確認することや、これから医師へ疑義照会すること、そして疑義照会のため薬を渡すまでに時間がかかってしまうことを伝えることが大切です。
疑義照会の記録の書き方を解説!実際の事例と例文もご紹介
疑義照会が完了したら記録を残しましょう。
処方変更の有無にかかわらず、処方せんの備考欄または以下余白の部分および調剤録(処方せんの裏側に調剤録を印字する場合はどちらか一方)と薬歴の両方に、疑義照会の内容と回答を記録しなければなりません。
記録は主に、黒色(赤色を用いる施設もある)のボールペンを用いて行います。「疑義照会」という頭書や薬剤師氏名などは、印鑑などを用いて簡略化してもかまいません。
ほかの薬剤師やスタッフが見たときにも、全容がわかるように書くことがポイントです。
疑義照会の記録に書くべき項目
疑義紹介の記録時に書くべき項目は以下の通りです。
薬歴には上記の内容に加えて、なぜその疑義照会をするに至ったのかも記録しましょう。
SOAP形式であれば、A(アセスメント)の欄に記入するのが一般的です。
記録を残すことで、あとから見返したときに疑義に至った理由がわかりやすく、ほかのスタッフが対応する際にも情報共有が容易になります。
また、同じような疑義照会が起きた場合にも役立つでしょう。
本当にあった疑義照会の事例と例文
ここでは、実際にあった疑義照会を例に記録の書き方を見ていきましょう。ほかの薬剤師やスタッフが読んでも分かるように、簡潔な書き方が理想的です。
事例1.「処方日数の変更」
1日おきの服用でリピトールを90日分処方。ほかの薬も90日処方であったこと、患者さまから3ヶ月分の薬がほしいとの意向があったことから疑義照会を行った。リピトールは45日分へ変更となった。
▼疑義照会の記録
2023年10月5日、15:30、〇〇医院へ電話にて疑義照会。
すべて90日処方であったが、リピトールのみ1日おきの用法だったため処方日数を確認。結果、リピトールのみ90日分から45日分へと変更すると××医師から返答。
薬剤師△△ △△
<記載時のポイント>
この疑義照会では、なぜリピトールのみ処方日数を変更する必要があったかの理由が記載されていると良いでしょう。
残薬の調整などでも処方日数の変更が生じることがあるため、患者さまへの確認も怠らないようにしましょう。
事例2.「同種同効薬の重複のため処方削除」
耳鼻咽喉科の処方せんを持参された患者さま。今回ロキソニンが処方されていましたが、お薬手帳より他院で処方されたセレコックスを服用中であることがわかりました。患者さまに確認したところ、病院ではお薬手帳を医師に見せなかったとのこと。疑義照会した結果、受付スタッフの方から医師に確認されロキソニンは削除されました。
▼疑義照会の記録
2023年10月5日、17:23、〇〇クリニック受付●●さまに電話で疑義照会
お薬手帳よりセレコックス服用中と判明。処方内のロキソニンは削除の旨を××医師に確認済み。
薬剤師 △△ △△
<記載時のポイント>
今回はクリニックの受付スタッフを介して疑義照会をしたため、疑義照会を確認した医師と受付スタッフの両方の氏名を記載しましょう。
この患者さまは医師にお薬手帳を提出していなかったため、セレコックスと同種同効薬のロキソニンが処方されてしまいました。薬局だけにお薬手帳を出す患者さまや、病院で併用薬を伝え忘れてしまう患者さまもいるため注意が必要です。
【SOAP薬歴の記入事例】薬歴を速くわかりやすく書く方法を徹底解説
疑義照会は薬剤師の重要な責務
疑義照会は薬剤師の経験と薬学的知識をもとに、医師とコミュニケーションを図る極めて重要な責務の一つです。多くの薬剤師が新人時代につまずくポイントでもあり、苦手とする方も少なくないでしょう。
しかし、要点をおさえて準備すればそう難しいものではありません。今回ご紹介した内容を参考にして、疑義照会を円滑にすすめられるようにスキルアップを目指しましょう。
監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん
2004年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。
主な著書に『OTC医薬品どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学:存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』