- 公開日:2021.12.29
『高齢者薬物治療認定薬剤師』とは?役割や資格の取得方法を解説【薬剤師の資格入門】
超高齢社会の到来に伴い、薬物治療を行う高齢者の数は増えています。高齢者は生理機能の低下による副作用や複数の疾患に起因するポリファーマシーになりやすいことから、とくに注意が必要です。
薬剤師の役割に期待が高まるなかで、『高齢者薬物治療認定薬剤師』に注目が集まっています。『高齢者薬物治療認定薬剤師』の資格について、概要や役割、取得方法、今後の展望を今回の記事でみていきましょう。
薬物治療における高齢者への支援が進む
内閣府の資料によると、今後も65歳以上の人口の増加によって高齢化率は上昇を続けて、2036年には33.3%、3人に1人は65歳以上になるとの予測が立てられています。
さらに2042年以降は65歳以上の人口が減少に転じるにも関わらず、高齢化率は上昇し続け、2065年には38.4%に到達。国民の約2.6人に1人が65歳以上になると見込まれているのです。
薬物治療を受ける高齢者が増え続けるなかで、ポリファーマシーなどの問題については国も本格的に解決に乗り出しています。厚生労働省は、高齢者のポリファーマシー対策を推進するため、2021年度からいくつかの医療機関を対象に、国が制作した業務手順書を先行して運用するモデル事業を開始しました。
高齢者の薬物問題を解決に導く『高齢者薬物治療認定薬剤師』の資格も同様に、今後ますます重要になっていくと考えられるでしょう。
『高齢者薬物治療認定薬剤師』とは?
高齢者薬物治療認定薬剤師制度とは、生理機能の低下などによって有害事象の起こりやすい高齢者に対する薬物治療が安全かつ適正にできるように、日々研鑽に努める薬剤師を認定する制度です。
一般社団法人薬局共創未来人財育成機構が認定を行っており、2~4年の研修を通して試験に合格することで資格が得られます。また、上位資格として設けられた専門認定薬剤師は、『高齢者薬物治療認定薬剤師』の認定後、2年以上の研修を受講して試験に合格することが取得の条件です。
『高齢者薬物治療認定薬剤師』の役割
『高齢者薬物治療認定薬剤師』の役割として、高齢者が直面する薬に関する問題全般への対応があげられます。以下の具体例をもとに、詳しく見ていきましょう。
医師の処方意図に基づいた処方の検討
生理機能の低下や複数科の受診で薬の一元管理が難しくなることなどによって起こる様々な薬物治療の問題に対して、医師の処方意図に基づいて検討することが求められます。医薬品の適用に関して検査値などで一律に判断するのではなく、患者さまそれぞれの既往歴や服用状況を考慮したうえでの検討が重要です。
処方提案による医師のサポート
処方の検討によって問題点や改善点が見つかった場合には、科学的根拠に基づいて処方を再構築し、医師に対して処方提案を行うこともあります。
医師が出した処方への介入について、抵抗を感じる薬剤師は少なくありません。資格取得によって知識を身につけることで、自信をもった提案ができるようになると期待されています。
多職種との連携強化
高齢者の薬物治療では、個人ごとの生理機能や合併症の有無などの様々な要因が絡むことにより、患者さま一人ひとりに合わせた医療が求められていくでしょう。
個々の状況に応じたより良い薬物治療のため、医師や看護師をはじめとした多職種との連携を強化し、必要な情報を共有・評価することが重要だと考えられています。
高齢者に起きやすい問題への対応(ポリファーマシー、処方カスケード、残薬など)
使用される医薬品数の増加や診療科の細分化により、医師が患者さまの服薬状況について把握しきれていないケースも多くあると言われています。
高齢者の場合はとくにポリファーマシーや処方カスケード、残薬などが問題とされることが多く、『高齢者薬物治療認定薬剤師』の役割が大きな意味をもつでしょう。
『高齢者薬物治療認定薬剤師』になるには?
こちらでは、『高齢者薬物治療認定薬剤師』の認定を受けるための資格要件、認定試験の概要、認定申請の方法について解説していきます。
認定試験受験の資格要件
認定試験を受験するための資格要件は、下記の通りです。
【要件1】症例検討ワークショップへの参加
初回集合研修参加日から2年間(1年以上経過していること。また事情がある場合は3年間、特別の事情がある場合には最長4年間)の間に研修を受講していること。専門認定薬剤師は、認定薬剤師となった後、連続した2年の研修期間の間に要件となる研修を全て受講し、受験することが可能。 ① 症例検討ワークショップ(認定薬剤師・専門認定薬剤師それぞれ指定されるワークショップ) ② Webラーニングによる自己学習(研修期間以前に受講した方も再受講し、研修手帳に学んだ内容を記載すること)【要件2】処方提案レポートおよび活動報告書の提出
処方提案症例レポートおよび活動報告書を規定の基準に従い提出を終えていること。 ① 高齢者薬物治療認定薬剤師:処方提案症例レポート(3報/年) ② 専門認定薬剤師:処方提案症例レポート(2報/年)活動報告書(1報/年) ※ 提出を終えていることが認定試験の受験要件 内容が基準に満たない場合は、後日、評価コメントに基づき再提出の場合あり。【要件3】CPC認証機構または学会が認める認定薬剤師であること
高齢者薬物治療認定薬剤師制度では、高齢者に対する薬物治療に特化して必要な知識・スキルを獲得し、実践することを目指す。 「高齢化社会における不適切処方をマネジメントできる高い臨床能力を持つ薬剤師」として、研修開始から認定を受けた後も継続して、実践の場での活動を通して獲得した知識・スキルの維持・向上を目指す制度。 よって、この研修プログラムでは、ジェネラリストとしての基本的な知識・スキルを継続学習により既に習得していることが前提条件。認定試験
認定試験は年1回、会場に集合する形式で実施されています。(2020年度の認定試験は、新型コロナウイルス感染症対策のため中止)
試験内容は以下のように構成されており、各項目で合格点をとることが必要です。
- 選択問題:各種ガイドラン及び公認テキストに沿った内容
- 症例提案:提示された症例に対し処方解析を行い、医師への処方提案を作成する
- 小 論 文:高齢者の薬物治療に関するテーマに対し自身の考えを述べる
認定申請の方法
以下の書類を事務局に送り、申請費用を振り込むことで完了します。
- 1.認定薬剤師申請書(合格通知に同封)
- 2.研修ポートフォリオ手帳
- 3.CPC認証機構または学会が認める認定薬剤師の認定証の写し
- 4.顔写真(IDカードに印刷希望者のみ)
費用
認定薬剤師の新規認定には、費用として5,500円が必要です。認定申請時に、合格通知書と一緒に送られてくる申請案内に記された指定の口座に振り込みます。別途、認定試験の受験料として5,500円がかかる点にも注意が必要です。
認定の更新について
認定薬剤師および専門認定薬剤師は、3年ごとの更新が必要です。更新要件も新規認定と同様に定められており、症例検討WSへの参加などが求められます。詳細は、一般社団法人薬局共創未来人財育成機構のホームページでチェックしてみてください。
資格の重要性は高齢化で増していく
今回は、『高齢者薬物治療認定薬剤師』の果たす役割、資格の取得方法、今後の展望について解説しました。
少子高齢化に伴い、医療機関を受診して薬物治療を行う高齢者の数は増え続けています。薬剤師が高齢者と関わる機会は、職場を問わず多くなるでしょう。薬剤師が高齢者の状態をしっかりと把握し、適切な対処をすることで、ポリファーマシーや残薬などの問題解決にもつながります。
そのための知識を習得できる『高齢者薬物治療認定薬剤師』の資格について、ぜひ取得を検討してみてはいかがでしょうか。
執筆者:ヤス(薬剤師ライター)
新卒時に製薬会社にMRとして入社し、循環器や精神科からオンコロジーまで、多領域の製品を扱う。
現在は患者さまと直に接するために調剤薬局チェーンに勤務しながら、後進の育成のために医薬品のコラムや医療論文の翻訳など、多方面で活躍中。