- 公開日:2020.01.24
薬剤師に求められるコミュニケーションスキルとは?‐生き残る薬剤師になるために必要なこと‐
日に日に進化していくAI技術により、「先々薬剤師がいらなくなるのでは」という仮説も飛び交うようになりました。そうした懸念を払拭するために、薬剤師は今後どのようなスキルを磨いて未来に備えるべきでしょうか。
本連載の第1回〜第4回では、コミュニケーションスキルの基礎からはじまり、患者さま・医療関係者・職場スタッフとの関わり方について、帝京平成大学・薬学部教授の【井手口直子(いでぐち・なおこ)先生】にお話を伺いました。
連載の最終回となる本記事では、これから先も薬剤師として第一線を走り抜けるために、そして生き残る薬剤師になるために必要なことを井手口先生にご紹介いただきます。
薬剤師の成長を支援する3つの要素。数年先の未来を見据えて
薬剤師が常に成長していくために必要なことは何でしょうか?
薬剤師が充実した成長をしていくためのフィールドは3つあります。1つ目は、「医療現場」。そこで求められるのは、最適な薬物療法を提供するために最新情報をキャッチすることです。そのためにも、専門誌や周辺ニュース、新聞などに常に目を通す必要があります。
2つ目は、「研究」。ここでいう研究は、現場にあった問題を解決に導いた事例を公にすることです。最近では、いろいろな学会で発表をこなす薬剤師も増えていて、こうした積み重ねが自分の得意分野をつくっていくきっかけにもなります。たとえば、糖尿病の専門薬剤師という強みなど。基本的に薬局は、来た処方箋を拒否できないので、糖尿病の患者さまのみ対応することはありません。しかし、自分がこれだという分野を持つことがやりがいに繋がりますし、それを研究に活かせるのはとても良いことです。
そして3つ目が、「教育」。組織の中での教育ももちろんですが、外部で教育に携わるのも良いですね。私が勤める大学では臨床の先生が実習を手伝ってくれる機会があります。このように、何かしら人を育てる場面に関われると良いでしょう。ちなみに、教える立場に立った時、決断力やビジョンだけではなく、情報収集などのネットワーキング力が大切になります。ここで重要なのは、自分より下の人に何かを聞かれた時に答えられないことがあっても、「あの人に聞いたらどうだろう?」という振り分けができるかどうかです。
「この人に聞けばこれがわかる」という情報があれば、スタッフ間の信頼も増していくし、組織からの信用残高も高められるのですね。
そうですね。新人の方にとって、3年目・5年目の先輩を見て自分の未来を前向きに想像することができるかは非常に大切です。そのためにも、前向きなロールモデルを見つけることが理想的と考えます。ですから、ベテランの方は、新人のロールモデルになれるように努力しましょう。そのためには、十分なネットワーキングを持つことや、ビジョンをもって将来について話せるようになることが必要です。
また、自分の3年後・5年後をイメージできるかは、どの立場であっても働く上で大切なこと。人生設計も含めて、将来的な自分の姿を見据えておけると良いですね。
神戸大学の金井先生の考え方で、『キャリアトランジション』というものがあります。「キャリアは螺旋で開発する」という考え方で、ぐるぐる回っているように見えて上がっていくというものです。トランジションの第一歩は、キャリアの節目をキャッチすること。学生のキャリアの節目は、「どこに就職しようか」と考えている段階。社会人のキャリアの節目は、「自分はこのままここにいて良いのか」という転職前の段階にあたります。節目の前には自らに問いかけ、キャリアデザインをしっかりと描いておかなければいけません。
キャリアデザインの描き方。管理者は、一人ひとりに合わせた対応を
キャリアデザインを描くためには、具体的にどのようなことをすべきでしょうか?
まずは、「自分は何が得意で何ができるのか」を自分に問いかけます。それから、「どんなキャリアを歩みたいのか」「どんなときに生きがいを感じるのか」。そして最後が大事で、「今までどのように人と繋がり、その縁をどう生かしてきたのか」という問いです。実はキャリアというのは、人の繋がりの中で築いていくものなのです。
それから、マネジメントを行う立場の人が特に参考にして欲しいのが、組織心理学者エドガー・シャイン先生が提唱する『キャリアアンカー』。つぎの8つの中に、自分のキャリア人生で絶対に捨てられない重要な要素が1つあるはずです。ただし、私個人の意見としては、優先順位をつけて2つか3つに絞れれば良いと思っています。
- 1.「専門性」(専門性を高めることが自分のキャリアの成功)
- 2.「マネジメント」(人と組織を動かすことが自分のキャリアの成功)
- 3.「自律」(仕事と時間を自分の好きなようにしたい)
- 4.「奉仕・社会貢献」(他者や社会の役に立つことがキャリアの成功)
- 5.「保証・安定」(保証や安定があって、初めて安心して働ける)
- 6.「起業」(自分で考えた事業を軌道に乗せたい)
- 7.「挑戦」(誰もしてないことをやり遂げたい、大きな達成感を味わいたい)
- 8.「ライフスタイル」(仕事はライフスタイルの一つで、家族や友人と同等)
どれを大切にしたいかは人によって異なります。と言うのも、キャリアに対する考え方は一人ひとり違うのです。だからこそ、それぞれの価値観に合わせる必要があります。
たとえば、専門性を高めたい人には学会参加を促す、人や組織を動かしたい人にはマネジメントの道を示す、挑戦型の人には常にチャレンジングなことを任せるなど。安定型の人が不安にならないよう会社の仕組みを整えたり、ライフスタイル型の人が残業する際は家族に電話をする時間を与えたりと、一人ひとりに合わせて工夫すると良いですね。
仕事の質を高めるために。必要なのは「相手の期待+α」のコミュニケーション
それから大切なのは、周りの人からの期待を超えるコミュニケーションです。周りとうまく関係性を保つには、相手のニーズをキャッチして、+αの対応をする必要があります。
たとえば、患者さまを1番にするあまり、納品に来た卸さんを待たせている人を見かけますが、ずっと待たせてしまうことで卸さんの仕事は滞ってしまいます。卸さんも薬局から見れば顧客(仕事の質に影響を及ぼす人)です。「こちらが顧客だから」と横柄でいると、いつの間にか急配してくれなくなる...なんて影響があるかもしれません。
仕事の質に影響を及ぼす人すべてが顧客です。上司や部下、店舗、近隣の薬局も、ありとあらゆる人が顧客であることを認識しましょう。忙しいのも分かりますが、きちんとその場その場で優先順位を決めていかなければなりません。そして相手の人が求めるより+αのものを提供できるように意識するのが良いですね。
患者さまだけを優先していれば良いというわけではなく、業務に関わるすべての人に相手の期待を超える配慮が必要なのですね。
これは、クレ―ム時の患者さま対応も同じです。謝罪+αの対応をすると、"ファン"になってくれることがあります。もともとクレームを出す人は、「この薬局にもっと良くなってもらいたい」という気持ちがあるからクレームを出すのです。
たとえば、お客様にアンケートを依頼する飲食店の場合。アンケートに応えてくださるお客さまの中で、「店主が見るから」「もう来ないから」といった理由で、『おいしい』に○をする人が次に来店することはありません。しかし、『おいしくない』『いま一つ」に○をした人は、改善に期待をしているから次がある。それから、アンケートを依頼しても応じないというのも無言のクレームだと思った方が良いでしょう。
だからこそ、クレームをくれる人にはお礼を言いましょう。これからもぜひ来てくださいと言われると期待をしてまた来てくれます。それだけではなく、お店のファンになってくれることもあるのです。
AIが一般化する未来に求められる薬剤師の姿とは?
AIにより医療が高度化した時、薬剤師が働く上でもっとも大事なことは何でしょう?
患者さまを大事にすること。これは今もこれからも変わらないと思っています。AIはうまく活用すれば便利ですが、やはり人は人。患者さまと薬剤師がしっかり対話をし、コミュニケーションを図っていくことが大切です。そうして、「あなたにお願いしたい」と言ってくださる、いわゆる"かかりつけの患者さま"をどれだけもてるかが重要になるでしょう。そのために、薬剤師としてコミュニケーションスキルを磨く必要があるのです。
まとめ
薬剤師の仕事をサポートする存在として、AIの活用が進む現代。AIがどこまでの仕事を担えるかわからない状況下で、私たちは仕事への価値観やキャリアデザインを明確にし、自分の強みを見出す作業が必要になります。
向かう先が決まれば、「人とのコミュニケーションをどう築いていくか」という部分に立ち返るのではないでしょうか。コミュニケーションスキルを磨くことは、未来の薬剤師としての自分をレベルアップさせるために必要不可欠です。
井手口先生のコミュニケーションスキルに関する連載は、本記事で最終回となります。あなたが理想とする薬剤師として活躍し続けるために、本連載をぜひお役立てください。
▼▼『薬剤師のためのコミュニケーション講座』一覧
Vol.01 【基礎編】薬剤師に求められるコミュニケーションスキルとは? Vol.02 薬剤師に求められるコミュニケーションスキルとは?- 患者さま編 - Vol.03 薬剤師に求められるコミュニケーションスキルとは?- 医療関係者編 - Vol.04 薬剤師に求められるコミュニケーションスキルとは?- 職場スタッフ編 - Vol.05 薬剤師に求められるコミュニケーションスキルとは? - 生き残る薬剤師になるために必要なこと -井手口直子(いでぐち・なおこ)先生
薬剤師。帝京平成大学薬学部薬学科 教授。帝京大学薬学部卒業後、新医療総合研究所代表取締役、日本大学薬学部専任講師を経て現職。日本ファーマシュティカルコミュニケーション学会常任理事、日本地域薬局薬学会理事、日本緩和医療薬学会評議員等を務める。
主な著書に、『ファーマシューティカルケアのための医療コミュニケ-ション』『薬学生・薬剤師のためのヒューマニズム』『薬剤師のためのコミュニケーションスキルアップ』などがある。現在、ラジオNIKKEI の医療インタビュー番組『井手口直子のメディカルカフェ』のパーソナリティとしても活躍中。
▼WEBサイト:井手口直子のメディカルカフェ