- 公開日:2019.12.20
薬剤師に求められるコミュニケーションスキルとは?‐医療関係者編‐
人々の命を委ねられ、専門的な知識が必要とされる薬剤師の仕事。けれども、実際には知識だけで薬剤師の仕事は成立しません。なかでも薬剤師に求められるのは、多方面におよぶ関係者とのコミュニケーションスキルです。
第1回は「薬剤師に求められるコミュニケーションスキル」の<基礎編>、第2回は<患者さま>とのやりとりのなかで必要になるコミュニケーションについて、帝京平成大学・薬学部教授の【井手口直子先生(いでぐち・なおこ)】にお話を伺いました。
第3回となる本記事では、薬剤師に求められる<医療関係者>とのコミュニケーションスキルについて解説いただきます。
医療関係者との信頼関係の構築。専門家としての振る舞いを
医師とのコミュニケーションのなかで、薬剤師が意識すべきことを教えてください。
多くの医師は、一度薬剤師を信頼したら、その後もいろいろな相談をしてくれるようになるでしょう。ですから、医師と薬剤師の間で信頼関係を築くことは非常に大切です。医師だけに限らず、医療関係者は薬剤師を専門家として見ているので、薬剤師としての役割をきちんと果たすという意識をして欲しいと思います。
薬剤師にできる医師への気遣い
たとえば、疑義照会をするときにも、ただ共有するべき情報を伝えて終わるのではなく、必ずプランを用意していくといいでしょう。できれば2つのプランがあるといいですね。根拠を示したうえで、医師が選べるように第一推奨と第二推奨のプランを可能を用意しておく。それが薬剤師にできる医師への気遣いだと思います。
2つのプランを出せれば、薬剤師の専門性への信頼は高まるでしょう。ただ、医師によって考え方はそれぞれなので、コミュニケーションをとっていくなかで相手の性格や傾向をキャッチしていくのは必要だと思います。
相手に合わせて対応を変えていく必要があるのですね。
そうですね。対話を続けるなかで「この医師はこういう提案の仕方に変えたほうがいいかもしれない」と感じたら、それに応じて調整をしていくべきだと思います。医師にもいろいろなタイプの人がいるので、『自分で考えて選べるほうが助かる』という医師もいるし、『余計な情報はいらないから一つに絞って欲しい』と考える医師もいます。それは医師の性格などで違ってくるので、その人その人に合わせたコミュニケーションのとり方が必要です。
薬剤師と医師はお互い専門家同士。薬剤師は、薬の専門家として医師をがっかりさせないというのは絶対です。また、言葉遣いや態度などにおいても失礼にならないように意識する必要があるでしょう。
在宅医療では、介護職との連携が重要です。在宅患者さまの服薬介助を行うヘルパーさんなどは、服薬についての困りごとを抱いています。お話を伺って解りやすく説明し、アドバイスを行う。こうしたサポートにより薬剤師がなくてはならない存在と認知されるでしょう。
過度なコミュニケーションはNG。関係各所の役割を考えた行動を
薬剤師にも医学知識は必要なのでしょうか?
医学知識はあったほうがよいと思いますが、どの程度かというと難しいですね。勤務しているのが、がんを専門的に治療する病院の門前薬局であればそれなりの知識が必要になります。その場合、高度専門の外来がんの患者さまが多いので、基本的ながんのレジュメや薬の副作用については知っておいたほうがスムーズです。今は検査値を印字してくれる病院も増えているので、検査値が読めるようなっておくのは最低限必要かもしれません。それから、担当する患者さまの検査値がどのような状態であるかを理解できるかどうかも重要です。
あくまでも薬物療法に関連する医学知識はあるに越したことはありませんし、がんの外来においては絶対になくてはならない知識だと思います。
そうしたより専門的な知識が必要になる薬局では、どのようなコミュニケーションが必要になるでしょうか?
門前薬局では、目の前の病院に勤務する医師からの処方が多い傾向にあるので、先生がよく出す処方の意図を把握しておくとよいと思います。できることは、Face to Faceで先生にお会いしたり、たまにはご挨拶に行ったり...。ただ、こうしたコミュニケーションは管理薬剤師がメインで行う仕事なので、一勤務薬剤師が勝手に行動をしてしまうと、管理薬剤師との関係が悪化してしまう場合もあるので加減が必要です。周りの人の立場もわきまえたコミュニケーションが取れないと、薬局内の人間関係が破綻してしまうこともあり得ます。
医療関係者とのコミュニケーションで大切なのは「誠実であること」
薬剤師が医療関係者とコミュニケーションをとっていくうえで、意識すべき点を教えてください。
一番は、人として、専門家として、誠実であることが重要だと思います。医療の現場では、医師だけではなく看護師やケアマネージャーなどの専門家が連携して治療を行うので、薬剤師は患者さまをそれぞれの立場から多角的に見られるようにならなければなりません。
たとえば、ケアマネージャーなどは、患者さまに対してマメにコミュニケーションをとり、患者さまの容体や体調をよく知る存在です。ですから、ケアマネージャーとは密な連絡がとれるツールがあるといいでしょう。昔ながらに連絡ノートを活用する方法もありますが、今はチャットアプリを使えば簡単に連絡がとれるので、そうしたものをどんどん活用していくのも医療の現場では必要だと思います。
コミュニケーションのなかで情報を得たものが、実務にも生きるのですね。
そうですね。薬剤師という専門家である以上は、医療や薬学の知識は前提としてもちろん必要です。しかし、知識や経験だけが身についていたとしても、それを現場に生かすことができなければ、あまり意味がないと思っています。
患者さまだけでなく、医師や看護師などの医療関係者が何に困っているのか何をして欲しいのか...。そうした気持ちをいち早くキャッチして、行動に落とせるようになるといいでしょう。薬剤師がもつスキルを存分に発揮するためにも、患者さまによい医療を提供するためにも、コミュニケーションスキルは絶対に欠かせないのです。
まとめ
薬剤師は"薬の専門家"として、さまざまなケースに対応できる引き出しとスキルが必要です。しかし、ひとりの患者さまに適切な治療を行うには、薬剤師だけではなく、医師や看護師など多くの専門家との連携が必要になります。そして、それらの誰か一人が欠けたところで、来院された患者さまに最良の治療は行えません。
薬剤師がコミュニケーションスキルを磨くことは、自身のもつスキルを存分に発揮し、患者さまに適切な治療を提供することにつながります。関係各所との綿密かつ良好なコミュニケーションは、自分の薬剤師としての価値を上げるだけでなく、結果的に患者さまにもよい影響を与えるでしょう。
▼▼『薬剤師のためのコミュニケーション講座』一覧
Vol.01 【基礎編】薬剤師に求められるコミュニケーションスキルとは? Vol.02 薬剤師に求められるコミュニケーションスキルとは?- 患者さま編 - Vol.03 薬剤師に求められるコミュニケーションスキルとは?- 医療関係者編 - Vol.04 薬剤師に求められるコミュニケーションスキルとは?- 職場スタッフ編 - Vol.05 薬剤師に求められるコミュニケーションスキルとは? - 生き残る薬剤師になるために必要なこと -井手口直子(いでぐち・なおこ)先生
薬剤師。帝京平成大学薬学部薬学科 教授。帝京大学薬学部卒業後、新医療総合研究所代表取締役、日本大学薬学部専任講師を経て現職。日本ファーマシュティカルコミュニケーション学会常任理事、日本地域薬局薬学会理事、日本緩和医療薬学会評議員等を務める。
主な著書に、『ファーマシューティカルケアのための医療コミュニケ-ション』『薬学生・薬剤師のためのヒューマニズム』『薬剤師のためのコミュニケーションスキルアップ』などがある。現在、ラジオNIKKEI の医療インタビュー番組『井手口直子のメディカルカフェ』のパーソナリティとしても活躍中。
▼WEBサイト:井手口直子のメディカルカフェ