- 公開日:2020.08.03
2020年診療報酬改定の変更点とポイントまとめ
超高齢化社会をむかえる日本では、医療費・介護費といった社会保障費の急増が懸念されています。持続可能な社会保障制度を実現していくためには、患者さまが安心して医療機関を受診して、質の高い医療サービスを享受できる診療報酬制度の構築が必要となります。
頻繁に改定の行われる診療報酬ですが、医療の専門家である薬剤師は、変更点やその要旨をしっかりと把握しておかなくてはなりません。この記事では、【2020年度診療報酬改定によって何が変わったのか/薬剤師にどのような変化をもたらすのか】などを保険薬局向けに改めてポイントを解説していきます。
2020年度診療報酬改定から読み取る薬剤師の役割
2020年度診療報酬改定では、「健康寿命の延伸、人生100年時代に向けた『全世代型社会保障』の実現」がメインテーマに掲げられています。薬局や薬剤師に関連する部分では、2025年を見据えた「患者のための薬局ビジョン」の実現を目指して、「かかりつけ機能の強化」や「対物業務から対人業務へのシフト」が促されました。
薬剤師の職能の広がりにより、薬剤師に求められる社会的役割はますます大きくなっています。薬物療法の有効性・安全性を確保するため、服薬情報の⼀元的・継続的な把握とそれに基づく薬学的管理・指導が求められているのです。
さらに、健康や介護などに豊富な知識と経験をもち、患者さまや生活者のニーズに沿った相談に応じていくことも重要です。2020年9⽉までの後発医薬品使⽤割合80%の実現に向け、患者さまに後発医薬品の存在や有用性を啓発していくことも、薬剤師の役割のひとつです。
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▼参考資料はコチラ
厚生労働省 令和2年度診療報酬改定について
厚生労働省 令和2年度診療報酬改定の概要(調剤)
▼参考記事はコチラ
調剤報酬改定から読み解く、「薬剤師に求められる役割」とは?-ファーマシーセミナーレポート-
診療報酬の変更点と押さえておくべきポイント
今回の診療報酬改定のなかでおさえておくべきポイントとして、「かかりつけ機能の評価」と「対物業務から対人業務への構造的な転換」があります。
かかりつけ機能の評価では、「かかりつけ薬剤師指導料」の引き上げ(73点→76点)や、重複投薬解消に対する取り組みを評価した「服用薬剤調整支援料2」が新設されました。また、同一薬局の利用促進のため、薬剤服用歴管理指導料の点数が低くなる再来局期間が6月から3月へ短縮されたことや、複数の医療機関の処方箋をまとめて応需する場合、2枚目以降の調剤基本料の点数が減算されるようになったこともおさえておかなくてはなりません。
対物業務から対人業務への構造的な転換では、「薬剤服用歴管理指導料」の引き上げ(41点→43点、53点→57点)に加えて、喘息などの患者さまに対する実技指導を評価した「吸入薬指導加算」や、インスリンなどの糖尿病治療薬の適正使用を推進する「調剤後薬剤管理指導加算」を新設。さらに、調剤基本料の改定や、内服薬の調剤料において日数に比例した①1~7日分、②8~14日分の点数が定額化され、15日分以上の点数も引き下げられるなど、調剤技術料の見直しもなされました。
そのほかにも、「在宅業務の推進」として、緊急に訪問薬剤管理指導を行った場合の評価(在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料)の拡充や、簡易懸濁法を開始する患者に必要な支援を行った場合の評価(経管投薬支援料)が新設されたこと、「後発医薬品の使用推進」として後発医薬品の調剤数量割合による点数の増減や、調剤数量割合が低い場合の減算規定の範囲が拡大(20%→40%)されたことなどもポイントです。改正法の一部施行により、オンライン診療に連動したオンライン服薬指導の評価(薬剤服用歴管理指導料4、在宅患者訪問薬剤管理指導料など)が新設されたことも、おさえておきましょう。
薬局が取り組むべきこと
今回の診療報酬改定を受けて、薬局はどのようなことに取り組めば良いのでしょうか。ここでは、薬局の売上に関連する内容に注目して、3つの項目に分けて解説していきます。
「かかりつけ機能」の強化
今回の改定で評価を受けた項目のひとつに、「かかりつけ薬剤師指導料」があります。「薬剤服用歴管理指導料」では、来局頻度やおくすり手帳の有無により、43点または57点の算定が認められていますが、かかりつけ薬剤師指導料では76点の算定が認められているため、大幅な収益アップが見込めます。
かかりつけ薬剤師の要件として、週32時間以上の勤務や12ヵ月以上の在籍が求められるため、働きやすい環境づくりも重要です。後述する「地域支援体制加算」の要件のひとつでもあるため、積極的に挑戦することがおすすめです。
「地域支援体制加算」や「後発医薬品調剤体制加算」の取得を目指す
薬局が利益率を高めるためには、「かかりつけ薬剤師指導料」などの薬学管理料を増やすだけでなく、調剤技術料を引き上げることも重要です。なかでも、多くの薬局が目指すべき加算として、「地域支援体制加算」や「後発医薬品調剤体制加算」が挙げられます。
地域支援体制加算は施設基準や要件が厳しく、ハードルが高い加算であるものの、要件を満たせば処方箋1枚あたり38点の算定が認められています。後発医薬品調剤体制加算においても、数量割合に応じて同15~28点の算定が認められているため、後発医薬品の使用割合を高めることも非常に重要です。
「面受機能強化※」や「在宅医療」の推進
前回の改定に引き続き、調剤基本料は薬局の要件や実績に応じて、5種類(9~42点)の点数に細分化されています。最も点数の高い「調剤基本料1(42点)」を算定するためには、集中率(全処方箋枚数に占める特定の医療機関からの処方箋枚数の割合)を下げるための取り組みが求められています。
「面受機能強化」によって、門前医院以外の処方箋の比率を高めると、集中率を下げることが可能です。また、「在宅医療」に関する処方箋は、受付回数の計算から除外されるため、在宅医療の割合を増やすのは調剤基本料を有利にすることにもつながります。
※面受機能強化とは・・・門前以外の医療機関からの患者さまを増加させる取り組みのこと
診療報酬改定の注意点
2020年度診療報酬改定の注意点として、処方箋受付回数や集中率、後発医薬品の使用割合などの薬局の要件や実績により、算定できる基本料や加算がこれまで以上に複雑になっていることが挙げられます。たとえば、処方箋受付回数が1,800~2,000回かつ集中率が95%超の薬局では、今回から調剤基本料2の基本料3を算定しなくてはなりません。「地域支援体制加算」においても、薬局が算定する調剤基本料の種類により、求められる実績が異なります。
また、従来からすすめられている「健康サポート薬局」は、現在の診療報酬では評価が行われていないため、収益に直接つながることはありません。ただし、次回以降の改定により何らかの加算の要件となる可能性もあるので、注意しておきましょう。
2020年診療報酬改定による薬局への影響
「かかりつけ機能の評価」と「対物業務から対人業務への構造的な転換」が中心となる2020年の診療報酬改定では、影響を受けやすい薬局と受けにくい薬局の差が、これまで以上に大きくなることが予測されています。
具体的には、在宅医療やかかりつけ業務などの「対人業務」に積極的な薬局では、「地域支援体制加算」や「かかりつけ薬剤師指導料」などの評価を受けやすいことから増収増益傾向だと考えられます。一方で、「対物業務」を中心としたマンツーマン型の門前薬局では、これらの評価を受けられないことに加えて、調剤基本料や調剤料(内服薬)の見直しにより、減収減益の影響を受けやすい側面があります。
そのほかにも、集中率が著しく高い薬局や、後発医薬品の使用割合が75%に満たない薬局も、「調剤基本料」の見直しや「後発医薬品調剤体制加算」が算定できないことから、改定の影響を大きく受けてしまう可能性があります。診療報酬という公定価格制度を取り入れている我が国では、国の施策に沿った取り組みが求められるのです。
診療報酬改定は、求められる薬剤師像を示すもの
診療報酬改定は、保険薬局や保険医療機関の運営に関わるため、医療に従事している方にとって非常に重要な制度改定です。改定の内容によっては、患者さまの負担につながることもあるため、十分に理解しておく必要があります。
診療報酬改定の内容から、世の中がどのような医療を求めているのかを読み取ることもできるため、薬剤師の役割について自分なりに考える機会にしてみましょう。
ファルマラボ編集部
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