- 公開日:2018.08.22
- 更新日:2021-11-26
『管理薬剤師』はどんなお仕事?業務内容や求められるスキルを徹底解剖【薬剤師のお仕事ガイド】
薬剤師がキャリアアップを目指すうえで最初のポイントが、「管理薬剤師」。高い年収に心惹かれるだけでなく、働きがいのあるポジションに挑戦したいと考える方は多いでしょう。
しかし、どうすればなれるのか、どのような役割が求められるのかは、あまり知られていないのではないでしょうか。ここでは、管理薬剤師の仕事内容や、管理薬剤師として働くためのポイントについてご紹介します。
管理薬剤師とは
「管理薬剤師」とは、各薬局や店舗に配置される責任者のこと。通常の調剤業務に加え、従業員の監督や医薬品の管理も行います。「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、薬機法)」に基づき、一つの職場に1名の管理薬剤師がいることが義務付けられています。
管理薬剤師になるための要件
2021年8月1日より薬機法に基づき薬局に対する法令遵守規定が施行されました。厚生労働省のガイドラインには、管理薬剤師の要件について以下の記載があります。
上記を受けて作成された、日本薬剤師会「薬局における法令遵守体制整備の手引き」でも、薬局における実務経験が少なくとも5年以上ある認定薬剤師が要件とされています。また、地域支援体制加算(旧基準調剤加算)を算定する要件としても、管理薬剤師には保険薬剤師として5年以上の薬局勤務経験が求められています。
管理薬剤師にはどんなスキルが求められる?
管理薬剤師になるためには、前述した要件を満たしたうえでどのようなスキルが必要なのでしょうか。ここでは、いくつかの具体例をあげながら見ていきます。
医薬品や医療制度の知識
管理薬剤師として働くためには、医薬品や医療制度に精通していなければなりません。臨床で用いられる薬の種類は多く、次々と新しい薬が販売されます。
また診療報酬や難病医療法、各種保険制度などの医療制度も年々変わっていくものです。さらに薬局スタッフのなかには、経験の浅い薬剤師や薬剤師以外の事務職など、知識が十分ではない方もいます。
適切な薬物療法や調剤報酬の請求を行うためには、管理薬剤師がしっかりと医薬品・医療制度の知識をもち周りのスタッフに対して共有していくことが必要です。
そうした知識やスキルを習得するためには、「最新の情報にアンテナを張る」「疑問に思ったことはきちんと調べる」など日頃の業務から意識して身につけていくようにしましょう。
在庫管理や数値管理の知識
管理薬剤師の仕事の一つに、医薬品の管理があります。必要な量の医薬品を在庫管理し、正しい方法で医薬品を備蓄することや、期限切れの医薬品を適切に処分することなど、医薬品を管理するためには専門知識が求められます。
たとえば、後発医薬品(ジェネリック医薬品)の置き換え率なども、現行の診療報酬制度においては重要項目となっています。そのため管理薬剤師は調剤業務だけでなく処方箋単価や薬価、後発品の有無など、臨床以外の経営部分にも目を向けなければなりません。
担当の薬局や店舗がきちんと利益を上げていけるように、薬を仕入れる金額や売り上げを適切に管理することも、管理薬剤師の重要な仕事なのです。
コミュニケーションスキル
従業員の監督業務も管理薬剤師の重要な仕事です。薬局や店舗には多くのスタッフが在籍しており、協力して仕事にあたっています。働き方や職種も様々で、管理薬剤師がうまくコミュニケーションをとってチームワークを高めていくことが求められます。スタッフが患者さまや取引先とトラブルを起こした際にも、管理薬剤師がうまく仲裁しなくてはなりません。
また、医師や看護師、周りの薬局のスタッフ、医薬品卸売会社の営業担当者であるMS(マーケティング・スペシャリスト)や薬剤師会の担当者など、社外の方とコミュニケーションをとることも多くなってきます。
コミュニケーションのスキルを高めるために、普段の仕事やプライベートにおいても、様々な人と積極的に関わるようにしましょう。
管理薬剤師になるメリット
管理薬剤師になるメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。
管理者として責任感をもって仕事ができる
管理薬剤師として働くようになると、薬局全体の業務を任されます。経営方針や運営方法について、薬局開設者と議論を交わすこともあるでしょう。
もちろん責任は重くなり、業務量も増えますが、一般薬剤師と異なる視点で仕事に取り組めるようになります。管理薬剤師にしかできない仕事もあるので、やりがいをもって業務にあたれ、マネジメントスキルや経営視点を身につけることにもつながるでしょう。
他店舗への応援や転勤が減る
大手の調剤薬局チェーンやドラッグストアなどでは、人手が不足している店舗に店舗間応援として派遣されることも多く、負担になってしまいがちです。しかし、薬機法によって管理薬剤師は店舗間応援も含めてほかの店舗で勤務することが禁止されています。また、薬局の責任者でもある管理薬剤師は比較的転勤の頻度も少なくなるので、同じ店舗で腰を据えて働きやすくなります。
ただし、薬局がある都道府県知事などの許可を得られれば、例外的に他店舗での勤務が認められることは知っておきましょう。
年収がアップする
管理薬剤師は責任や業務量が増えるため、対価として基本給がアップしたり、管理薬剤師手当が支給されたりするケースがほとんどです。
管理薬剤師手当は月数万円に設定されているケースもあり、そうなると年収が数十万円単位で増加します。年収アップは管理薬剤師を目指す大きなメリットであり、やりがいにもつながりやすいでしょう。
転職の選択肢が増える
管理薬剤師の経験があれば、目指せる薬局の幅が広がります。たとえば、応需する処方せんが少ない薬局では、管理薬剤師しか正社員を募集してない場合も。個人薬局や小規模な調剤薬局のチェーン店では、管理薬剤師の高額求人を出していることもあるので、年収アップを目指す方におすすめです。
管理薬剤師になりたい!でもその前に知っておきたい注意点
管理薬剤師はメリットも多いですが、必ずしも良いことばかりというわけではありません。そこで最後に、管理薬剤師になる前に知っておきたい注意点を解説していきます。
業務量が増える
管理薬剤師は、一般の薬剤師に比べるとより多くの仕事をこなさなくてはなりません。
具体的には、各種申請資料の作成、シフト管理、在庫のチェックや発注、医薬品卸売会社の営業担当であるMSとの価格交渉、粗利や売り上げの数値管理など多岐にわたります。業務量の増加により残業時間が増え、休みがとりにくくなる可能性も考えられます。
副業や兼業ができない
薬剤師はパートや派遣就労の時給も高く、副業でもある程度の収入を得ることが可能です。様々な職場を経験でき、スキルアップにもつながるため、ダブルワークとして複数の薬局を掛け持ちで働く人もいます。
しかし、管理薬剤師は基本的に兼業することが認められていません。兼業のためには薬局がある都道府県知事などの許可を得る必要があります。
1人薬剤師の店舗には注意
応需する処方箋が少ない店舗では、管理薬剤師が一人薬剤師として勤務する店舗もめずらしくありません。そこでは、調剤・監査・投薬・薬歴管理といった業務に加え、管理薬剤師としての仕事もすべて一人で行わなくてはならないのです。有給休暇の取得も難しいことが多いため、ワークライフバランスを重視したい方は注意しましょう。
一方で、「一人薬剤師」として管理薬剤師を務めた経験は市場価値を高めます。転職でも評価されるポイントなので、挑戦する価値は十分にあると言えるでしょう。
キャリアアップのためには「管理薬剤師」の経験は必要不可欠
管理薬剤師の仕事内容や、一般の薬剤師からキャリアアップする際のポイントや注意点について、解説してきました。
管理薬剤師は、専門的な立場から薬局を管理する役職。一般的な調剤業務に加えて、スタッフや医薬品の管理などを行います。仕事における裁量は増えますが、そのぶん責任も重くなります。特定の資格や要件などは設けられていないので、日々の業務のなかで少しずつスキルを身につけ、管理薬剤師を目指しましょう。
薬剤師としてキャリアアップをしていくためには、管理薬剤師の経験は必要不可欠。ここでご紹介したメリットや注意点を参考にして、チャンスがあれば積極的に経験することをおすすめします。
執筆者:ヤス(薬剤師ライター)
新卒時に製薬会社にMRとして入社し、循環器や精神科からオンコロジーまで、多領域の製品を扱う。
現在は患者さまと直に接するために調剤薬局チェーンに勤務しながら、後進の育成のために医薬品のコラムや医療論文の翻訳など、多方面で活躍中。