- 公開日:2019.08.20
- 更新日:2023-04-21
【薬剤師向け】めまい薬「ベタヒスチンメシル酸塩(商品名:メリスロン)」とは?記憶力向上に関する最新の研究も解説
メニエール病などに伴う眩暈(めまい)症状の改善に用いられる、「ベタヒスチンメシル酸塩(主な商品名:メリスロン)」。2019年1月に発表された、東京大学・北海道大学・京都大学などのチームが行った研究によると、ベタヒスチンメシル酸塩に記憶力を向上させる可能性が報告されています。
あくまで仮説段階の知見であるため、現時点で実臨床には用いられません。しかし、記憶力を向上させるメカニズムが解明されれば、アルツハイマー病など認知症に用いられる治療薬の開発も期待できるのです。
そこで本記事では、【ベタヒスチンメシル酸塩の概要や効果・副作用】について解説します。
- 「ベタヒスチンメシル酸塩」とは?その概要や研究成果について
- ベタヒスチンメシル酸塩の効果・効能は?治療薬としての有用性について
- ベタヒスチンメシル酸塩の副作用は?投与に注意すべき患者さま
- ベタヒスチンメシル酸塩で注意すべき飲み合わせ
「ベタヒスチンメシル酸塩」とは?その概要や研究成果について
ベタヒスチンメシル酸塩について
ベタヒスチンメシル酸塩は、メニエール病などに伴うめまいを治療する薬として世界中で幅広く用いられています。1969年1月に販売された同薬は、内耳や脳内の血液の流れを良くすることで、めまい症状を改善すると考えられています。
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ベタヒスチンメシル酸塩を用いた研究
2019年1月、東京大学や北海道大学、京都大学などによって組まれたチームは、ベタヒスチンメシル酸塩に記憶力の向上が期待できる可能性を報告しました。
この研究では、健康的な成人、計38名が対象となりました。被験者は、研究開始時に128枚の写真を見せられ、1週間後に写真に関する想起(思い出し)テストを受けています。
被験者または、テストの開始30分前にベタヒスチンメシル酸塩を服用するグループと、プラセボ(偽薬)を服用するグループにランダムに振り分けられました。なお、この研究では、ベタヒスチンメシル酸塩を服用するグループと、プラセボ(偽薬)を服用するグループを入れ替えて同様の研究を繰り返す、ランダム化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験が採用されています。
テストの結果、写真を正しく思い出した人の割合は、ベタヒスチンメシル酸塩を服用しなかったグループに比べて、服用したグループで11%高いことが分かりました。正しい写真を回答できなかった人ほど、ベタヒスチンメシル酸塩投与時の正答率が高いことが分かりました。
ただし、この研究ではベタヒスチンメシル酸塩が108㎎で投与されているなど、医療現場で用いられる投与量(1回6〜12mg)をはるかに上回る高用量で用いられていたことに注意が必要です。
『Central Histamine Boosts Perirhinal Cortex Activity and Restores Forgotten Object Memories』| National Library of Medicine
『Central Histamine Boosts Perirhinal Cortex Activity and Restores Forgotten Object Memories』| Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers
忘れた記憶を復活させる薬を発見 -既存の薬物で記憶痕跡の再活性化に成功-| 東京大学 「忘れた記憶を復活させる薬を発見 -既存の薬物で記憶痕跡の再活性化に成功-」| 東京大学大学院薬学系研究科・薬学部
ベタヒスチンメシル酸塩の効果・効能は?治療薬としての有用性について
ベタヒスチンメシル酸塩の効果・効能は、メニエール病などに伴うめまい症状の改善です。
また、ベタヒスチンメシル酸塩には、脳内の情報伝達物質・ヒスタミンの放出を促す働きがあります。先ほどの研究では、ベタヒスチンメシル酸塩を服用した人たちは、ヒスタミンが活性化したことで、写真を思い出せたのではないかと考えられています。確かに、ヒスタミンによって記憶を担う神経細胞が活性化し、忘れた記憶の回復に繋がった可能性はありますが、現段階では仮説にとどまります。
したがって、今回の研究結果だけでは、ベタヒスチンメシル酸塩の服用によって記憶力が向上するとは言い切れません。。また、2023年3月時点では、ベタヒスチンメシル酸塩の認知症適応はありません。
あくまでも、ベタヒスチンメシル酸塩はメニエール病などに伴うめまい症状の改善を期待する薬であることを忘れないようにしましょう。
ベタヒスチンメシル酸塩の副作用は?投与に注意すべき患者さま
ベタヒスチンメシル酸塩は、重大な副作用は報告されておらず、比較的副作用の少ない薬です。報告されているベタヒスチンメシル酸塩の副作用には、悪心・嘔吐や発疹などがあります。
また、ベタヒスチンメシル酸塩はヒスタミン類似作用を有するため、以下のように投与が適さない患者さまがいることを覚えておきましょう。
消化性潰瘍の既往歴のある患者さまおよび活動性の消化性潰瘍のある患者さま
胃にあるヒスタミンH2受容体が刺激を受けると、胃酸分泌が促進されます。過剰な胃酸分泌は潰瘍を起こすこともあります。ベタヒスチンメシル酸塩はヒスタミン類似作用を有するため、H2受容体を介して胃酸分泌亢進を引き起こすおそれがあります。
気管支喘息の患者さま
ヒスタミンがヒスタミンH1受容体に結合することで、気道が収縮し、気管支喘息を引き起こします。気管支喘息の患者さまがベタヒスチンメシル酸塩を服用すると、ヒスタミン類似作用によって気道が収縮され、症状が悪化する可能性があります
褐色細胞腫のある患者さま
褐色細胞は、アドレナリンやノルアドレナリンなど、交感神経に作用するホルモンを産生する細胞です。ベタヒスチンメシル酸塩のヒスタミン類似作用により、アドレナリンの過剰分泌を引き起こし、血圧が上昇する可能性があります。
褐色細胞腫|MSDマニュアルプロフェッショナル版
そのほかにも、生理機能が低下している高齢者、安全性の確立していない妊婦・授乳婦や小児においても注意が必要です。
ベタヒスチンメシル酸塩で注意すべき飲み合わせ
一般的に、薬を飲むときには、ほかの薬との飲み合わせを確認する必要があります。ベタヒスチンメシル酸塩は、併用注意も併用禁忌のどちらも報告がされておらず、飲み合わせを避けるべき薬は製剤添付文書に明記されていないのが現状です。
そのため、ほかに薬を飲んでいる方でも、ベタヒスチンメシル酸塩は相互作用を起こしにくいと考えられます。薬によっては、避けることを推奨されている食べ物もありますが、そちらも今のところ報告されていません。
今回の研究成果は大きな前進に。今後の研究に期待
厚生労働省の発表によると、認知症の患者数は年々増加傾向にあります。2012年時点で約462万人であった患者数は、団塊の世代が75歳以上となる2025年には700万人前後に達する見通しとなっています。認知症治療薬の研究は進められていますが、期待した成果が得られているものは決して多くありません。
そうした中で、今回の研究成果は新たな可能性を示唆するものです。記憶が回復する仕組みを解明し、これまでの認知症の研究成果と組み合わせれば、アルツハイマー病などに効果が見込める新たな治療法の開発につながる。そんな期待が寄せられています。
薬剤師は認知症の患者さまとその家族に、薬学的視点をふまえて適切に助言することが求められています。以下の記事では、認知症の患者さまに対する接し方と服薬コミュニケーションについて詳しく解説しているので、ぜひ確認してみてください。
認知症患者に対する接し方と服薬コミュニケーション<在宅医療にかかわる薬剤師必見>
監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん
2004年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。
主な著書に『OTC医薬品 どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学: 存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』
ファルマラボ編集部
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