- 公開日:2022.06.27
【薬局のお困りごと】「病院に行かずに薬だけ欲しい」という患者さまにどう対応する?
薬剤師は、処方箋が交付されていない患者さまに対して処方箋医薬品を調剤することはできません。しかし、何らかの理由で病院に受診しておらず、処方箋を持たない患者さまから「処方箋はないが、薬局で薬だけ出してほしい」と求められ、対応に困ることもあるのではないでしょうか。
欲しい薬が処方箋医薬品以外であれば、必要な受診勧告を行ったうえで、代替案として「一般用医薬品(OTC)の販売」や「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売(零売)」も可能ですが、この記事では、「処方箋なしで処方箋医薬品を欲しい」という患者さまへの対応方法について解説していきます。
零売薬局とは?処方箋なしで医薬品の一部を販売できるその概要と事例を紹介
「薬だけ欲しい」と言われた場合の対応
薬剤師の対応にはさまざまあると考えられます。しかし、対応の仕方を誤るとクレームにつながることもあるため、以下の流れ①〜③のステップを参考にして丁寧に説明するようにしましょう。
ステップ①│患者さまの求めに耳を傾ける
薬剤師は処方箋なしで調剤することは認められていませんが、「決まりなのでできません」といきなり断ってしまうのは避けるべきです。患者さまからの信頼度が低下してしまい、クレームにつながることも考えられるため、まずは患者さまの求めに耳を傾けることを意識しましょう。
ステップ②│なぜ「薬だけ欲しい」のか理由を確認する
患者さまが「薬だけ欲しい」と要求する理由には、以下のようなケースが考えられます。その理由を明らかにして対応することが重要です。
処方箋なしで医薬品の調剤を求める理由
1.医療機関を受診する手間を省きたい
2.処方箋を失くしてしまった/期限が切れてしまった
3.薬の紛失や飲み間違いにより、薬が不足している など
ステップ③│患者さまへの受診勧告、情報提供
まずは、いかなる理由があっても処方箋なしでは調剤が行えないことを患者さまに伝え、受診勧告を行います。受診勧告をする際には、それぞれの「処方箋なしで医薬品の調剤を求める理由①〜③」に対応した情報提供や服薬指導などを行うことも重要です。次項では、これらの対応について解説します。
それぞれの理由に対する薬剤師の対応
医療機関を受診する手間を省きたい患者さまの場合
患者さまが「医療機関を受診する手間を省きたい」と考える理由が、「面倒だ」「忙しいため時間を節約したい」といった理由であれば、オンライン診療、オンライン服薬指導、リフィル処方箋などの制度について情報提供するのもよいでしょう。ただし、オンライン診療、リフィル処方箋はあくまでも医師の判断によって行われるものであることに加えて、受診抑制にもつながる制度です。そのため、むやみに患者さまにこれらの制度を勧めてしまうと、ほかの医療機関とのトラブルにつながる可能性があるため慎重に行うことが重要です。
そのほかにも「病状が安定しており、長期にわたって処方内容に変化がないため受診する意義が感じられない」といった理由で受診を手間に感じているケースも考えられます。そのようなケースには、
など、受診する意義を患者さまへ伝えるように努めましょう。
処方箋を失くしてしまった/期限が切れてしまった患者さまの場合
処方箋の有効期間は原則として交付された日を含めて4日間です。期限が切れた処方箋を受け付けて、薬局から医療機関に対して期限の延長の依頼をすることは認められていません。基本的に、処方箋の紛失や期限切れの場合には再度医療機関を受診し、処方箋の再発行を受けなければなりません。また、これらの場合は保険適用外となるため、自費での診察料・処方箋料の負担が必要となります。
ただし、処方箋の再発行に関しては医療機関独自のルール等が存在することもあるので、まずは処方発行元の医療機関に確認をとったうえで、どのような対応になるかを患者さまに伝えましょう。
薬の紛失や飲み間違いにより、薬が不足している患者さまの場合
飲み間違いにより、次回の受診予定日の前に薬が不足してしまった患者さまに対しては、正しい用法・用量について再度服薬指導を行います。また、過量投与によって何らかの体調変化があらわれていないかを確認し、副作用の可能性がある場合には、直ちに処方医への情報提供を行います。
また、紛失や飲み間違いによって薬が不足した場合でも、処方箋の紛失、期限切れの場合と同様に処方箋の再発行が必要となります。ただし紛失、飲み間違いによる薬の不足の場合は、処方箋を再発行する医療機関のみならず、薬局でのお薬代も自費での負担になることに注意が必要です。
リフィル処方箋、オンライン診療・オンライン服薬指導とは
リフィル処方箋とは
2022年度調剤報酬改定では、症状が安定している患者さまについて、一定期間内に処方箋を反復利用できるリフィル処方箋の仕組みが設けられました。これにより、リフィル指示のある処方箋については、3回を上限に処方箋の反復利用が認められています。医療機関を受診する手間を省きたい患者さまに対しては、医師にリフィル処方箋を発行してもらうことで、医療機関を受診する頻度を減らすことが可能となります。
リフィル処方箋については、下記の記事で詳しく解説しているので、確認しておくようにしましょう。
リフィル処方箋制度とは?メリット・デメリットや薬剤師への影響について
オンライン診療・オンライン服薬指導とは
医師、薬剤師がPCやタブレット端末などの情報通信機器を利用して診療、服薬指導を行うことをオンライン診療、オンライン服薬指導と呼びます。オンライン服薬指導は患者さまからの要望があれば薬剤師の判断で実施できるため、少しでも医療機関に行く手間を減らしたい患者さまに有効な手段です。ただし、オンライン服薬指導を実施するためには、患者さまの検査値やお薬手帳の情報などを薬剤師が受け取る手段、処方箋を受け取る手段、薬を配送する手段などを整備しておく必要があります。
「薬だけ欲しい」という患者さまに対応できる薬剤師に
「薬だけ欲しい」という患者さまに対しては、まずは「薬だけ欲しい」と求める理由を確認しましょう。その後、患者さまに対してそれぞれの理由に対応した情報提供や服薬指導などを行ったうえで、処方箋医薬品の交付には処方箋が必要である旨を説明します。
医療機関の再受診や処方箋の再発行は保険適応にはならず、自費での負担となるため、理解を得られるように共感の姿勢で対応することが重要です。
薬剤師として患者さまに対して適切な説明ができるように、正しい知識を身につけておきましょう。
監修者:松田宏則(まつだ・ひろのり)さん
有限会社杉山薬局下関店(山口県下関市)勤務。主に薬物相互作用を専門とするが、服薬指導、健康運動指導などにも精通した新進気鋭の薬剤師である。書籍「薬の相互作用としくみ」「服薬指導のツボ 虎の巻」、また薬学雑誌「日経DI誌(プレミアム)」「調剤と報酬」などの執筆も行う。