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  • 公開日:2025.02.03

【薬剤師向け】内服抗菌薬の種類とそれぞれの特徴、使用上の注意点を解説!

【薬剤師向け】内服抗菌薬の種類とそれぞれの特徴、使用上の注意点を解説!

抗菌薬は、細菌感染症治療において欠かせない重要な薬剤です。しかし、その種類は非常に多く、それぞれ薬理学的な特徴や留意すべき点が異なります。
本記事では、内服抗菌薬について基本的な知識から服薬指導まで幅広く解説しますので、ぜひ参考にしてください。

抗菌薬はどんな薬?基本の知識をおさらい

抗菌薬には多くの種類があります。各種詳しい説明に入る前に、抗菌薬の基本知識をおさらいしましょう。

抗菌薬の役割

抗菌薬は細菌感染症の治療に使用される薬剤です。主な作用機序は、下記の通りです。

  • 細胞壁の合成阻害作用
  • 細胞膜の障害作用
  • タンパク質合成阻害作用
  • 核酸合成阻害作用
  • 抗菌薬は、細菌の構造や機能に作用するため、細菌以外の病原体(ウイルスや真菌など)が原因となる感染症には効果が期待できません。

    抗菌薬と抗ウイルス薬の違い

    抗菌薬と抗ウイルス薬の主な違いについては、下記の通りです。


    作用対象作用機序適応疾患耐性
    抗菌薬細菌細菌の細胞壁合成阻害、タンパク質合成阻害など細菌感染による肺炎、尿路感染症、皮膚感染症など細菌の遺伝子変異や機能的構造の変化による耐性が問題となる
    抗ウイルス薬ウイルスウイルスの複製阻害、宿主細胞への侵入阻止などインフルエンザウイルス感染症、帯状疱疹、HIV感染症などウイルスの遺伝子変異などによる耐性が問題となる

    患者さまにとって、抗菌薬と抗ウイルス薬の細かな違いを理解するのは難しい場合があり、薬剤師が抗菌薬と抗ウイルス薬の違いを理解することは、患者さまの不適切な残薬使用リスクを軽減する上で重要です。

    詳しくは「内服抗菌薬を安全に使用いただくために!患者さまへの服薬指導のポイント」の章で解説します。

    内服抗菌薬の一覧とそれぞれの特徴を紹介

    内服抗菌薬の一覧とそれぞれの特徴を紹介

    内服抗菌薬の種類は主に下記のとおりです。

  • ペニシリン系抗菌薬
  • セフェム系抗菌薬
  • カルバペネム系抗菌薬
  • アミノグリコシド系抗菌薬
  • ニューキノロン系抗菌薬
  • マクロライド系抗菌薬
  • テトラサイクリン系抗菌薬
  • グリコペプチド系抗菌薬
  • グリコペプチド系以外の抗MRSA薬
  • それぞれの種類ごとに、特徴や代表的な薬剤を解説していきます。

    ペニシリン系抗菌薬

    ペニシリン系抗菌薬は、細菌の細胞壁合成を阻害することで殺菌的作用を示します。グラム陽性菌を中心に幅広い抗菌スペクトルを持ちますが、ペニシリン系抗菌薬を加水分解できるβ-ラクタマーゼのペニシリナーゼ産生菌には効果が期待できません。

    β-ラクタマーゼ産生菌にはβ-ラクタマーゼ阻害剤との合剤が使用されます。

    一般名販売名効能・効果副作用
    アンピシリン水和物・クロキサシリンナトリウム水和物ビクシリンS配合錠肺炎、肺膿瘍、慢性呼吸器病変の二次感染下痢、食欲不振、悪心、急性汎発性発疹性膿疱症など
    アモキシシリン水和物・クラブラン酸カリウムオーグメンチン配合錠125SS/オーグメンチン配合錠250RS慢性呼吸器病変の二次感染、膀胱炎、腎盂腎炎など下痢、腹痛、発疹、肝障害など

    セフェム系抗菌薬

    セフェム系抗菌薬も細胞壁合成阻害により殺菌的作用を示す薬剤です。第一世代から第四世代まであり、一般的に第三世代までは世代が進むにつれてグラム陰性菌への効果が増強されます。

    一般名販売名効能・効果副作用
    セファレキシンセファレキシン錠250mg「日医工」表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、咽頭・喉頭炎、骨髄炎、膀胱炎など腹痛、下痢、軟便、胃不快感、食欲不振など
    セフジニルセフゾンカプセル50mg/セフゾンカプセル100mg咽頭・喉頭炎、扁桃炎、肺炎、膀胱炎、腎盂腎炎など下痢、腹痛、皮膚障害、大腸炎など

    また、第四世代はグラム陽性菌と緑膿菌を含むグラム陰性菌の双方に抗菌力を持っています。

    カルバペネム系抗菌薬

    カルバペネム系抗菌薬は、広域な抗菌スペクトルを持つβ-ラクタム系抗菌薬です。主に注射で投与され、重症感染症や耐性菌感染症に使用されますが、経口薬も一部存在します。

    現在、日本で使用可能な経口カルバペネム系抗菌薬については下記の通りです。

    一般名販売名効能・効果副作用
    テビペネム ピボキシルオラペネム小児用細粒10%中耳炎、肺炎、副鼻腔炎下痢、軟便、発疹、急性腎障害など

    アミノグリコシド系抗菌薬

    細菌のタンパク質合成を阻害することで殺菌的作用を示します。主にグラム陰性桿菌などによる重篤な細菌感染症の治療に使用されます。

    一般名販売名効能・効果副作用
    カナマイシン一硫酸塩カナマイシンカプセル250mg「明治」感染性腸炎過敏症状、難聴、食欲不振、腎障害など

    ニューキノロン系抗菌薬

    細菌の増殖に必要な酵素(DNAジャイレースやDNAトポイソメラーゼⅣ)を阻害することで殺菌的作用を示します。広い抗菌スペクトルを持ち、組織移行性も良好です。

    一般名販売名効能・効果副作用
    シタフロキサシン水和物グレースビット錠50mg/グレースビット細粒10%急性気管支炎、尿道炎、歯周組織炎など下痢、悪心、めまい、頭痛、光線過敏症など
    レボフロキサシン水和物クラビット錠250mg/クラビット錠500mg/クラビット細粒10%表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、急性気管支炎、感染性腸炎など
    下痢、悪心、めまい、光線過敏症など

    マクロライド系抗菌薬

    細菌のリボソームに作用してタンパク質合成を阻害します。主にグラム陽性菌や非定型病原体に効果を示します。

    一般名販売名効能・効果副作用
    アジスロマイシン水和物ジスロマック錠250mg慢性呼吸器病変の二次感染、深在性皮膚感染症、尿道炎、子宮頸管炎など下痢、腹痛、悪心など
    クラリスロマイシンクラリス錠50小児用/クラリスドライシロップ10%小児用慢性呼吸器病変の二次感染、表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、感染性腸炎など味覚異常、下痢、腹痛、肝機能異常など

    テトラサイクリン系抗菌薬

    細菌のリボソームに作用してタンパク質合成を阻害します。広い抗菌スペクトルを持ち、非定型病原体にも効果が期待できます。

    一般名販売名効能・効果副作用
    ミノサイクリン塩酸塩ミノマイシン錠50mg慢性呼吸器病変の二次感染、淋菌感染症、表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、感染性腸炎など光線過敏症、めまい、頭痛、胃腸障害など

    グリコペプチド系抗菌薬

    細菌の細胞壁合成を阻害することで殺菌的作用を示します。主にMRSA感染症などに対して使用されます。

    一般名販売名効能・効果副作用
    バンコマイシン塩酸塩バンコマイシン塩酸塩散0.5g「VTRS」感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む)、骨髄移植時の消化管内殺菌急性腎障害、ショック、アナフィラキシーなど

    グリコペプチド系以外の抗MRSA薬

    MRSA感染症に対しては、グリコペプチド系以外にも効果的な抗菌薬があります。

    一般名販売名効能・効果副作用
    リネゾリドリネゾリド錠600mg「サワイ」各種感染症骨髄抑制、下痢、悪心、頭痛など
    ▼参考資料はコチラ
    伊豆津宏二/今井靖/桑名正隆/寺田智祐 編:今日の治療薬2025 解説と便覧.南江堂,2025

    抗菌薬が市販で販売されていない理由

    抗菌薬が市販で販売されていない理由

    抗菌薬が一般用医薬品として販売されていない主な理由は、薬剤耐性菌の出現を防ぐためです。薬剤耐性菌とは、抗菌薬に対して耐性を獲得した細菌を指します。

    薬剤耐性菌の出現に関連したリスクについては、主に以下の3つが挙げられます。

  • 治療の困難化:既存の抗菌薬が効かなくなり、感染症の治療を困難にする
  • 医療費の増大:より高価な新薬や長期入院が必要になる
  • 健康被害の増加:耐性菌の拡大により、効果的な治療が困難な感染症が増加し、重症化や死亡率の上昇を引き起こす
  • 抗菌薬の適切な使用は、これらのリスクを最小限に抑えるために必要不可欠です。薬剤耐性菌について詳しく知りたい方は、ぜひ以下の記事も参考にしてみてください。

    内服抗菌薬を安全に使用いただくために!患者さまへの服薬指導のポイント

    内服抗菌薬を安全に使用いただくために!患者さまへの服薬指導のポイント

    抗菌薬には多くの種類があり、それぞれ服用方法や副作用などが異なります。そのため、患者さまが理解できるように丁寧に説明することが重要です。

    ここでは服薬指導のポイントとして、以下の3つを解説します。

  • 抗菌薬や抗ウイルス薬の残薬を確認する
  • 処方された薬を医師の指示通り飲み切る
  • 辛い副作用が出現したら我慢せずに医師や薬剤師へ相談する
  • 抗菌薬や抗ウイルス薬の残薬を確認する

    抗菌薬と抗ウイルス薬の違いを正確に理解していないために、風邪などのウイルス性上気道感染症に対して、以前に処方された抗菌薬を不適切に使用してしまうケースがあります。薬剤師は、これらの薬の違いや適切な使用方法を患者さまにわかりやすく説明し、残薬の有無や残薬が生じてしまった理由を丁寧に確認することが大切です。また、不要な残薬がある場合は適切な処分方法を指導しましょう。

    処方された薬を医師の指示通り飲み切る

    症状が良くなったと感じて、自己判断で薬の服用をやめてしまう患者さまも多くいるかもしれません。しかし、自己判断で薬の服用をやめることは感染症の再燃や悪化を招いたり、薬剤耐性菌の出現リスクを高めたりすると考えられています。

    そのため、医師の指示通りに薬を飲み切ることの重要性を強調し、患者さまの理解を得ることが大切です。特に、症状の改善が見られても、細菌が完全に排除されていない可能性があることを言及し、医師から指示された用法用量通りに服用することを丁寧に説明しましょう。

    辛い副作用が出現したら我慢せずに医師や薬剤師へ相談する

    抗菌薬は、特に消化器系の副作用が出やすいことが知られています。これらの副作用には、下痢や腹痛、吐き気などがありますが、副作用が現れた場合は我慢せずに医療従事者に相談するよう、患者さまに伝えましょう。また、あらかじめ起こりうる一般的な副作用とその対処法について説明しておくことで、患者さまの不安を軽減し、適切な対応を促すことができます。

    薬剤師として抗菌薬の服薬指導をよりスキルアップするために、感染制御認定薬剤師の資格を取得するのもおすすめです。詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

    患者さまが内服抗菌薬を安全に使用できるように特徴を理解しよう

    本記事では、内服抗菌薬の種類とそれぞれの特徴、使用上の注意点などを解説しました。

    薬剤師として適切な服薬指導ができるように、ぜひ参考にしてください。内服抗菌薬の適正使用を通じて、患者さまの健康と社会全体の医療の質向上を目指していきましょう。

    青島 周一さんの写真

      監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん

    2004年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。

    主な著書に『OTC医薬品どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学:存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』

    記事掲載日: 2025/02/03

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