- 公開日:2020.10.07
薬の飲み忘れ防止のために薬剤師ができることとは?
薬物治療の高度化とともに、ひとりの患者さまが服用する薬剤の数は増加しつつあります。超高齢社会の到来によって、高齢者の残薬管理問題なども取り上げられるなか、医療のあり方も見直されています。
患者さまの薬の管理をサポートし、飲み忘れの問題を解消するためにも、これから薬剤師に求められる役割はますます大きくなっていくでしょう。この記事では、患者さまの薬の飲み忘れを防ぐため、薬剤師にどのようなことができるのか解説していきます。
薬の飲み忘れはなぜ起こる?
薬物治療を開始すると、薬を毎日定期的に服用しなくてはなりません。しかし、薬を飲み忘れる患者さまは多く、薬剤師が積極的に介入していく必要があります。また、薬の飲み忘れを解消していくためには、飲み忘れがなぜ起こるのかを知っておかなくてはなりません。ここでは、日本調剤株式会社によって実施された『処方薬の飲み残しに関する意識調査』のデータをもとに、詳しくみていきましょう。
※本調査は、「これまでに1ヵ月以上継続して薬を処方されたことがある」全国の20代~60代以上の男女1,021人を対象に、2014年7月25日~28日の期間、インターネットにより実施されました。
調査の中で、飲み残し薬が「よくある」「たまにある」と答えた方を対象に、飲み残し薬が生じる理由を調査したところ、最も多かった理由は「服用するのをつい忘れてしまうから(65.8%)」というものでした。次いで「体調回復などにより飲む必要がなくなったから(30.0%)」「指示どおりに飲まなくてもよいと思うから(10.9%)」が挙げられました。
また、性年代別に見ると、とくに60代以上では「服用するのをつい忘れてしまうから」という理由が、男性では74.4%、女性では90.9%と、高い割合を占めることが読み取れました。
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医薬品の適正使用が行われなかった場合の影響
飲み忘れなどにより服用を中止してしまった場合、どのような影響があるのでしょうか?ここでは、医薬品の適正使用が行われなかった場合の影響について解説します。
治療効果が十分に得られない
疾患の治療を行うためには、決められた用法用量を守り、薬を正しく服用する必要があります。薬のなかには、抗生物質や抗ウイルス薬のように、症状が改善しても処方されたすべてを飲み続けなくてはならないものも少なくありません。飲み忘れや自己判断による服用中止により、それまでの治療効果の低下や消失につながるおそれもあります。
副作用のリスクが高まる
薬は、用法用量を守り正しく服用することで、期待された効果を発揮します。オーバードーズ(過量投与)による副作用ばかりが注目されがちですが、飲み忘れも副作用を引きおこす原因のひとつです。安全域が狭く用量調節が難しいものや、継続的に服用しないと効果が現れない薬も多いので、飲み忘れが思いがけない副作用を引き起こすことも理解しておきましょう。
医療コストにも不穏な影
飲み忘れなどによって医薬品を適正に使用できなければ、医療コストの増大につながる恐れもあります。たとえば、降圧剤や抗血小板剤などの服用を自己判断でやめてしまうことは、脳梗塞や心筋梗塞などの深刻な病気を引き起こしてしまう要因になります。本来は薬物治療のみで治癒するような疾患でも、飲み忘れによる治療失敗により、重篤化してしまうケースもあるのです。
薬の飲み忘れを防ぐには"服薬アドヒアランスの向上"が不可欠
前項まででご紹介したとおり、薬の飲み忘れを引き起こす最大の理由として、「服用するのをつい忘れてしまう」という背景があります。一度に複数の薬を飲まなければならなかったり、薬の種類や飲む回数が増えたりすると、飲み忘れのリスクは高くなります。また、服薬による効果が感じられないことや、症状が一時的に改善されたことによる自己判断での服用中止も少なくありません。
薬の飲み忘れを防ぐためには、まず患者さま自身が治療に向き合う「服薬アドヒアランス」を向上させることが重要です。患者さま自身が治療の選択や決定に携わることで、薬の飲み忘れを減らし、高い治療効果が期待できます。薬剤師による服薬指導は、適切な薬物治療において不可欠ですが、下記のポイントに注意しなくてはなりません。
薬剤師からの情報提供や指導は、患者さまの服薬アドヒアランスを向上させるために非常に重要な役割を果たします。そしてそれらの情報提供や指導を適切に行うためには、患者さまとの信頼関係を築くことが大切です。一方的な説明をするのではなく、患者さまとの良好なコミュニケーションを通して、わかりやすい適切な情報提供を心がけましょう。
<活用例>飲み忘れ防止のために薬剤師ができること
飲み忘れを防止するためには、薬物治療の専門家である薬剤師の活躍が期待されています。ここでは、飲み忘れ防止のために薬剤師ができる対処法について、具体例を挙げながら解説していきます。
ケース1.「錠剤が多く飲みにくい」
薬の種類や飲む回数が増えると、飲み忘れや飲み間違いのリスクが高まります。薬を飲むこと自体を苦痛に感じている場合、服薬コンプライアンスはさらに低下してしまいます。そんなときには、「かかりつけ薬剤師制度」を利用して、服用している薬剤の整理を行いましょう。
不必要な薬剤の減薬提案に加えて、配合剤や徐放化製剤を利用し、できるだけ錠数や飲む回数を減らすように工夫します。複数の医療機関を受診している場合には、一包化によって服用薬をまとめることもおすすめです。
ケース2.「服用することをついつい忘れてしまう」
「服用するのをつい忘れてしまうから」という理由は、すべての世代で高い割合を占めていました。とくに服用回数が多い薬は、飲み忘れのリスクもさらに高まります。また、高齢者においては加齢によって記憶力や認知機能の低下が影響している可能性もあるでしょう。
そうした場合には、服薬カレンダーやお薬アラームの活用がおすすめです。服用する薬を、日常生活で目につきやすい場所に日にちごとにセットしておけば、薬の飲み忘れを減らす効果が期待できます。また、近年ではスマートフォンのアプリを利用した服薬管理も注目を集めています。
ケース3.「自己判断による服薬中止」
薬の飲み忘れを引き起こす原因のひとつに、自己判断による服薬中止が挙げられます。とくに服薬による効果が感じられない場合や、症状が一時的に改善された場合には、服用をやめてしまうケースが多いと言われています。そんなときには、服薬アドヒアランスを向上させることによって、患者さまの積極的な治療への参加を促しましょう。
「薬の服用がなぜ必要なのか」「服用によるメリットや中止によるデメリットにはどのようなものがあるのか」を患者さまに理解してもらうことが重要です。理解が得られない場合には、時間をかけて話をしたり、丁寧に説明したりするなど、適切な方法を実施しましょう。
薬剤師による働きかけが、薬の飲み忘れ防止につながる
この記事では、患者さまの薬の飲み忘れを防ぐために、薬剤師にどのようなことができるのかを解説しました。薬によっては1日に複数回の服用が必要なものや、起床時、空腹時など、特別なタイミングに服用しなければならないものもあります。一度に多くの薬を飲まなくてはならない場合どうしても飲み忘れてしまうものです。
しかし、薬の飲み忘れは期待した治療効果が得られないだけでなく、副作用や医療コストの増大にもつながる恐れがあります。薬剤師による服薬指導を通して、患者さまのアドヒアランスを高め、薬物治療をより良くしていくことが求められているのです。
ファルマラボ編集部
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